大判例

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東京高等裁判所 平成7年(行コ)170号 判決 1997年10月30日

控訴人

東京都地方労働委員会

右代表者会長

沖野威

右訴訟代理人弁護士

加藤眞

右指定代理人

渡辺圭二

外二名

控訴人補助参加人

国鉄労働組合

右代表者中央執行委員長

永田稔光

控訴人補助参加人

国鉄労働組合東京地方本部

右代表者執行委員長

高橋義則

控訴人補助参加人

国鉄労働組合東京地方本部新幹線支部

右代表者執行委員長

山本好明

右控訴人補助参加人三名訴訟代理人弁護士

宮里邦雄

海渡雄一

岡田和樹

渡辺正雄

福田護

野村和造

田中誠

中村宏

被控訴人

東海旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

葛西敬之

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

向井千杉

富田美栄子

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人及び控訴人補助参加人三名の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人及び控訴人補助参加人等

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり改めるほかは、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書四頁一一行目において引用する原判決別紙記載の組合員のうち、「64」の「小林秋雄」を「今泉(旧姓小林)秋雄」に、「69」の「箕輪泰臣」を「蓑輪泰臣」に改める。

二  同五頁八行目の「補助参加人等」を「控訴人補助参加人等」に、同五行目から六行目の「夏季手当の減額支給及び賃金規定に定める「昇給欠格条項」該当者として取扱う措置」を「夏季手当を減額支給する措置」に、同一一行目の「救済命令」を「救済命令(以下「本件救済命令」という。)」に改める。

三  同七頁一行目の次に行を改めて「(二)控訴人は、労働組合法に基づき設置され、労使間の不当労働行為の審査、判定及び紛争の斡旋、調停、仲裁等を主として行う行政機関である。」を加え、同二行目の「(二)」を「(三)」に改める。

四  同九頁五行目の「同月」を「同年二月」に、九行目の「2 就業規則の定め」を「2 労働協約、就業規則の定め」に、同一〇行目の「原告の」を「被控訴人と国労東海鉄道本部との間で昭和六二年四月二四日に締結した労働協約六条には、組合員(専従を除く。)は、被控訴人から承認を得た場合を除き、勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがあるほか、控訴人の」に改める。

五  同一〇頁七行目、同二〇頁一〇行目、同二一頁一一行目の各「服装の整装」を「服装の整正」に改める。

六  同一一頁一〇、一一行目の各「号棒」を「号俸」に、同一〇行目の「越える」を「超える」に改める。

七  同一三頁九行目の「号棒」を「号俸」に、同一〇行目の「自覚にかけ」を「自覚に欠け」に改める。

八  同一四頁一〇行目の「本件組合バッヂ」を「組合バッヂ」に改める。

九  同一六頁五行目の「補助参加人等」を「控訴人補助参加人等」に、同七行目の「原告は」を「被控訴人において」に改める。

一〇  同一七頁一行目の「命令」を「本件救済命令」に改める。

一一  同一九頁三行目から六行目を次のとおり改める。

「二 争点

1  被控訴人のした本件組合員等に対する本件措置が労働組合法七条三号に該当するか否か。

2  控訴人補助参加人等は、本件訴訟において、本件措置が労働組合法七条一号に該当することを主張することができるか。これができるとすれば、本件措置が同条一号に該当するか否か。

三 当事者等の主張」

一二  同二〇頁四、五行目を削除し、同二一頁一行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「ところで、本件就業規則違反が成立するためには、控訴人が主張するように職務の遂行が阻害されるような実害発生を必ずしも要件とすべきではない。控訴人及び控訴人補助参加人等は、実質的にみて業務の遂行に支障がなく、また、業務運営を阻害しない性質の組合活動は、たとえ使用者の承認がなくとも、その正当性は認められるべきであるとし、本件組合バッヂの着用によって実質的な意味での職場規律や業務の運営に支障が生じたとは認められないと主張する。しかし、右主張は、大多数の社員によって遵守されている就業規則の不遵守、その遵守を求める指示に対する反抗的所為の存在が認められても、なお、減益、運行阻害等現実に把握し得る不利益が発生しない限り職場規律違反は認め得ないという見解に帰し、不当である。このような一部の例外的少数社員により公然と敢行される就業規則不遵守、指示違反は、それ自体企業秩序保持義務に違反するものであり、本質的に業務の正常な運営を阻害するものであるのみならず、もしそのような状態が放置されるべきことになれば、さらにその影響が業務上大きく波及し得ることは否定すべくもない(国鉄における職場秩序の乱れが、業務上の指示権の否定ないし反抗という初期の萌芽から、収拾し得ない現場協議制の濫用による職場の無秩序化状態に達し、その改善を指向して改革法に基づき新会社が発足したものである。)。このような就業規則違反、指示命令違反の状態は、まさに、放置し得ない職場秩序の乱れとして理解されるべきである。

また、控訴人補助参加人等は、本件組合バッヂ着用の権利性を主張するに当たり、外国における組合バッヂの取扱及び国内のJR各会社以外の民営各社における事例を援用して、これらを考慮すべきであるというが、抽象的に一般化して論じ得るものではなく、各国の労働組合の実態、各企業における職場規律の確立、維持に関する努力、取扱等に異同があるものであるから、同一に論じることはできない。」

一三  同二二頁七行目の「なお、」の次に、「本件救済命令は、被控訴人に対し、主文第一項(2)において、「昭和六二年五月二七日から同月三〇日までの間に行った組合バッヂ着用」を理由とする「厳重注意」を理由に、本件組合員等を「昇格欠格条項」該当者として取り扱わないこと」を命じるが、」を加え、同八行目から九行目の「終了していたのであるから」を「終了しており、本件組合員等は、「昇格欠格条項」該当者としては取り扱われていないから」に改め、同一〇行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、本件措置が労働組合法七条三号に該当するとして、本件救済命令を発したものであるところ、本件訴訟は、原処分の適否を審理判断の対象としており、原処分をした労働委員会の続審的性格を有するものではなく、また、控訴人補助参加人等が控訴人の主張に反する主張をすることはできないから、本件訴訟においては、本件措置が労働組合法七条一号に該当するか否かは判断されるべきではない。」

一四  同二五頁一行目「「再建委員会」」を「日本国有鉄道再建監理委員会」に改め、同四行目の「労使関係の経緯」の次に「(葛西職員局次長(当時)の発言、人材活用センターへの控訴人補助参加人等所属の組合員の大量配属、第二次労使共同宣言が行われた際の国鉄総裁の発言、国鉄末期に職場規律の乱れが問題となったときにも組合バッヂについては不問に付されていたこと等)」を加え、同五行目の「四月」を「昭和六二年四月」に、同七行目の「指導をしている。」を「指導をした上、本件組合員等の行為態様からすれば不相当に重大な不利益処分である本件措置に及んでいる。」に改める。

一五  同二六頁一行目から同三〇頁六行目までを次のとおり改める。

「(一) 労働組合法七条一号該当性の主張の可否

被控訴人のした本件組合員等に対する本件措置は、労働組合法七条三号の不当労働行為に該当するほか、同条一号の不当労働行為に該当するものであるが、控訴人補助参加人等は、控訴人に対し、その旨主張して、救済の申立てをしたところ、控訴人は、本件措置が労働組合法七条三号に該当するとして、本件救済命令を発した。本件訴訟は、行政処分である本件救済命令の取消訴訟であり、その訴訟物は、本件救済命令の適否、すなわち本件救済命令の違法性一般であり、本件救済命令の法律的根拠として同条三号のほかに同条一号を追加変更したとしても、処分の同一性の範囲を逸脱するものではなく、被控訴人に不利益を与えるものでもないから、法律的根拠として本件措置が同条一号に該当するとの主張を追加変更することができるのであって、本件措置が同条三号に該当しないと判断された場合には、同条一号に該当するか否かが判断されるべきである。なお、行政処分取消訴訟の補助参加人は、いわゆる共同訴訟的補助参加人の地位を有するから、被参加人の訴訟行為と抵触するか否かを問わず、その訴訟行為は有効であり、控訴人補助参加人等は右の点についても主張することができるというべきである。

(二) 就業規則の解釈・適用について

就業規則は、使用者の一方的制定の方式を採るものであるから、その解釈は厳格に行われるべきであり、とりわけ、それが労働者や労働組合の権利・保護利益にかかわりを持つ場合には、慎重な解釈と適用が要請される。

本件就業規則は、労働条件の基本と職場における「職場規律維持、業務運営保持」の目的で定められたものであるが、労働者及び労働組合が有する権利との関係で、制約もしくは調整を受けざるを得ないものであるから、本件就業規則二〇条三項、二三条の運用に当たっては、本件救済命令が判断したように「ただ会社(被控訴人)の一方的に定めた規則に違反したというだけでは足りず、バッヂの着用が具体的に職場の秩序を乱し、または業務の運営を阻害する等と認められる場合に限って発動させる配慮が必要である」というべきである。最高裁判所も、就業規則の解釈・適用について、労働者や労働組合員について考慮されるべき権利や利益との比較衡量的な考え方を採用しており、このような考え方からすれば、本件組合バッヂの着用に対する本件措置は不当とされるべきものであり、さらにいえば、当審において証言した中山教授が指摘するとおり、組合バッヂ着用の関係では、このような利益衡量論は本来ストレートに適用されないと考えるべきである。何故なら、組合バッヂの着用は、結社・団結を求める精神的利益であるから、それと衡量される使用者側の利益はあり得ず、あるとすれば、職場の中から国労色を消していく利益だけであるからである。

(三) 本件組合バッヂ着用の権利性

労働組合は、組合の一つのシンボルとして、団結自治の内容として、組合バッヂを制定する自由を持つ。労働組合は、組合員にそのバッヂを与え、組合員はこれを団結の象徴として着用する自由を持つ。組合員が組合バッヂを着用する自由は、憲法二八条の保障する団結権により根拠付けられるが、団結権は、結社の自由を基盤としており、組合バッヂの着用は、結社の自由に含まれる労働者の精神的自由の範囲に属する行為ともいえる。したがって、本件組合バッヂの着用を禁止するには、特別の事情が存在することが必要である。本件組合バッヂの着用自体は、団結権行使の一態様、団結活動の一態様と評価できるが、実質は国労所属組合員であることの表明行為にすぎず、使用者への要求を表示したり、第三者に働きかけたりするものではなく、また、示威行為ともいえないのであるから、職務専念義務違反を論じる余地はない。仮に、職務専念義務違反を形式的にとらえ、これとの抵触が問題になるとしても、それまでの本件組合バッヂ着用にかかわる労使の慣行や国労に対して激しい組織攻撃が加えられていたことなど当時の労使関係にかかわる諸般の状況を総合すれば、本件組合バッヂ着用は、組合活動としての正当性を失わないし、本件措置は労働組合に対する支配介入に該当するほか、労働組合の正当な行為をしたことに対する不利益取扱に該当するというべきである。そして、本件組合バッヂの着用が具体的に職場の秩序を乱し、業務の運営を阻害するものでなく、前記特別の事情が認められず、権利として保障されるべきことは、次の事実からも明らかである。

国鉄時代、国労のみならず、他の組合も組合バッヂを作り組合員に交付していた。本件組合バッヂの形状は、縦1.1センチメートル、横1.3センチメートルのもので、デザインは、黒地の金属板に、金色の線路の断面図が描かれNRUの表示が賦されたもので、昭和四一年二月の国労結成二〇回大会において、それまでのデザインを現在のものに変更することが決定された。その形状、内容、色彩、デザイン等からして、極めて地味で小さく、他人の注意を引かない目立たないものである。

国鉄においては、就業規則六条、制服及び被服類取扱基準規程一六条(「被服類には、腕章、キ章、服飾等であって、この規程に定めるもの及び別に定めてあるもの以外のものを着用してはならない。」)の規定があったところ、右のような組合バッヂは、職場の内外において各組合の組合員により長年にわたり制服の襟の部分に着用されてきたが、組合バッヂ着用を理由とする処分は全く行われたことがなかった。また、国鉄当局は、職場規律を確立するため、昭和五七年三月から昭和六〇年九月までの間に八次にわたり職場規律の総点検を行ったが、「服装の整正に関する点検項目」の中から組合バッヂは除外されており、その間も国労、動労、鉄労の組合員は、就業時間中も組合バッヂを着用していた。また、国鉄は、昭和六一年一月一三日、鉄労や動労との間に、「労使共同宣言」を締結したが、服装の整正については組合バッヂの着用の禁止を明文から除外していた。そして、国鉄は、昭和六一年三月五日に個々の職員を評定する「職員管理調書」を作成したが、それには「服装の乱れ」「勤務時間中の組合活動」の項目があるが、組合バッヂには全く触れられていない。

その後、動労や鉄労により組織された鉄道労連は、組合バッヂを定め、被控訴人が発足した昭和六二年四月一日付け組合機関紙上で、組合バッヂの着用を当然のこととして、「着けよう鉄道労連バッヂ」というキャンペーンを行ったが、被控訴人から取り外しを指示されて着用を中止した。そうしておいて、被控訴人は、本件組合バッヂを着用するであろう控訴人補助参加人等の組織に対し、本件組合バッヂの取り外しを口実に公然と介入できる機会を作ったものである。

組合バッヂは、内外の鉄道関係組合で着用されている。すなわち、JR以外の私鉄関係の組織である私鉄労働組合総連合会傘下の労働組合に対する調査によると、組合員は、就業時間中に同連合会が定めた組合バッヂ(横1.3センチメートル、縦0.8センチメートルで、緑と赤地又は黒地にPRUとデザインされたもの)を着用しているが、使用者からの介入や不利益取扱などはされていないことが明らかである。また、国際産業別組織である国際運輸労連(ITF)を通じて行ったアンケート調査によれば、フランスを除き、世界各国の交通労働者のほとんどが勤務時間中に加盟組合の組合バッヂを着用しており、使用者からそれに対して何らの制限を受けていないことが明らかとなっている。この結果は、本件措置が国際的常識からみても異例であることを示している。憲法上団結権の保障規定のないアメリカ合衆国においても、連邦最高裁判所は、一九四五年(昭和二〇年)四月のリパブリック航空事件において、組合バッヂ着用の権利性を承認し、以後、「作業遂行や安全への支障、あるいは顧客へのサービスへの悪影響など特段の事情がない限り、組合バッヂ着用の権利は制限されない」との考え方が確立してる。ちなみに、アメリカ連邦裁判所の右基準を用いてみても、本件において右「特段の事情」は認められない。

(四) 職場規律問題と本件組合バッヂ

国鉄は、戦前戦後を通じて超優良企業であったが、昭和三九年に「赤字」に転落した。その理由は、政府、議員は、国鉄に新幹線を始めとする新線の建設を行わせ、これに伴う借入金とその利息が経営を悪化させ、昭和五九年には、債務額は二二兆円に達した。政府は、他方で、多額の税金を投じて道路建設を進め、輸送分野における国鉄の足場を崩し、また、国鉄の事業範囲を制限し、新線開発やターミナル開発による利益を得られないようにさせ、国鉄の赤字を拡大させた。さらに、国鉄経営の困難を助長させたのは、労使関係に対する政府の政策である。すなわち、政府は、国鉄当局に経営の自主性を与えなかったため、労使関係の不安定化を招き、国鉄の経営悪化の要因となった。このように、国鉄の赤字は、交通政策の貧困と利権政治に由来するものであり、国鉄で働く労働者が責任を問われるようなものではなかった。

ところが、昭和五五年ころから「国鉄赤字論」が喧伝され始め、昭和五七年ころからは国鉄を分割民営化するとともに、職員を大幅に削減しようとする動きが出てきた。すなわち、第二次臨時行政調査会が昭和五七年七月三〇日に提出した第三次答申(基本答申)は、国鉄財政の現状とその原因に触れた上で、国鉄に最も大切なこととして、(1)経営者が、経営責任を自覚し、それにふさわしい経営権限を確保し、企業意識に徹し、難局に立ち向かうこと、(2)職場規律を確立し、個々の職員が経営の現状を認識し、最大限の生産性をあげること、(3)政治や地域住民の過大な要求等外部の介入を排除することなどの三点を上げ、「新しい仕組みについての当調査会の結論は、現在の国鉄を分割民営化することである。」とした上、「新形態移行までの間緊急にとるべき措置」の一つとして「職場規律の確立を図るため、職場におけるヤミ協定、悪慣行(ヤミ休暇、休憩時間の増付与、労働実態のともなわない手当、ヤミ専従、管理職の下位職代務等)は全面的に是正し、現場協議制度は本来の趣旨にのっとった制度に改める。」とすることを指摘した。

しかし、国鉄時代に「職場規律の乱れ」として取り上げられた問題の多くは、国鉄と国労が締結した現場協議制についての労働協約の運用にかかわるものが中心であって、国鉄の下部機関と労働組合が協定したり、慣行として行っていたことが、国鉄本社の正規の承認を得ていなかったり、規定に反していたり(「時間内洗身」や「ヤミ専従」など)、あるいは、労働の実体を伴わない手当であったり(「ブルートレイン手当」など)したものである。これは、労働条件変更の手続のあり方や国鉄当局の現場管理のあり方の問題であった。もう一つの側面は、職員が管理職の指示に従わなかったり、勝手に休んだりしたことである。職員が管理職の正当な業務指示に従わなかったり、正当な理由がなく欠勤したりすれば、本来就業規則に従って懲戒するなどすべき筋合いのことである。それが、組合が怖くてできないというのであれば、それは、国鉄当局の現場管理のあり方の問題である。

以上のとおり、「職場規律の乱れ」として取り上げられた問題は、いずれも主として国鉄当局の「管理の乱れ」であって、それ自体は、労働組合の権利とは関わりを持たない事柄であり、使用者の責任において是正できるものを是正すれば足りるのである。それにもかかわらず、被控訴人が「職場規律」を保持するためとして、本件組合バッヂの着用を禁止し、本件措置に及んだことは、不当労働行為に該当するというべきである。

(五) 不当労働行為意思を推認させる国鉄及び被控訴人関係者の言動等

以下にみられるような国鉄及び被控訴人関係者の言動等は、国鉄当局が国労に対し強固な反組合的意思を有していたこと及び被控訴人がこれを引き継ぎ国労を嫌忌し、本件措置が、被控訴人による国労の組織を弱体化しようとした支配介入行為であったこと又は労働組合の正当な行為をしたことに対する不利益取扱であったことを推認させるものである。

(1) 「第一次共同宣言」の締結と国鉄総裁の発言

国鉄当局は、昭和六一年一月一三日、動労、鉄労などと「労使共同宣言」を締結したが、右宣言は、国労の方針であった分割民営化反対の方針変更を迫り、分割民営化を進めようとする国鉄当局への全面的協力を求めるものであったので、国労は締結を拒否した。これに対し、国鉄当局は、国労を「信頼を持てない組合」と評価した。すなわち、杉浦国鉄総裁は、昭和六一年一〇月二一日の衆議院・国鉄改革に関する特別委員会において、「労使共同宣言に調印できないあるいは反対である組合に対しては信頼は持てない」と明言し、「労使共同宣言」を機に、国労敵視と弱体化の労務政策は一段と強化されるに至った。

(2) 葛西国鉄本社職員局次長の発言

葛西国鉄本社職員局次長(現被控訴人代表取締役社長)が昭和六一年五月二一日に開かれた動労の会議に出席し、「私はこれから山崎(当時の国労の委員長)の腹をブンなぐってやろうと思っています。みんなを不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということはうまくやるということでありまして……」と発言し、国労に対し不当労働行為をすることを明言した。

(3) 岡田機械課長の文書

国鉄本社車輌局岡田機械課長は、昭和六一年五月、全国の各機械区所長に対し、「管理者は自分の機械区(の国労)は自分の責任において潰すのだという居直りが必要不可欠である。」とまで述べた文書を送付し、国労潰しを指示した。

(4) 国鉄総裁による国労非難

杉浦国鉄総裁は、昭和六一年七月八日の動労大会及び鉄労大会に出席し、両組合を賛美する一方、言外に国労を敵視し、国労を抜けなければ新会社への雇用が保証されないかのごとき発言をして、国労所属組合員の雇用不安を煽った。

(5) 第二次労使共同宣言の締結

国鉄当局と動労、鉄労などは、昭和六一年八月二七日、「第二次労使共同宣言」に調印した。その内容は、「労使は、「国鉄改革協議会」(国鉄、動労、鉄労などで構成する。)が、今後の鉄道事業における労使関係の機軸として発展的に位置づけられるよう、緊密な連携、協議を行う。」とするもので、露骨な組合間差別の意図を表明するものであった。

(6) 二〇二億円訴訟の取下げ

国鉄当局は、昭和六一年八月二八日、二〇二億円訴訟(昭和五〇年一一月二六日から同年一二月三日まで行われた「スト権スト」に関し、国鉄当局が昭和五一年二月に国労及び動労に対して、それによって発生した二〇二億円の損害賠償の支払を求めた訴訟)について、動労に対する訴えのみを取り下げた。

(7) 人材活用センターへの差別的配属

国鉄当局は、昭和六一年七月一日、「人材活用センター」を全国一〇一〇箇所に設置した。新聞報道などから、同センターへの配置は新会社への不採用に通じるとの考え方が一般的であったが、国鉄当局は、国労所属組合員を集中的に同センターに配置した結果、同年一一月一日現在国労の組織率が国鉄全職員の四八パーセントにもかかわらず、同センターの八一パーセントが国労所属組合員で占められていた。新幹線支部についてみても、支部や分会の役員を中心に一一八人が配置され、国労脱退等により大きな組織的打撃を受けた。本州においては、退職者が激増し、定員割れとなったため、同センターに配置された者の採用差別は規実化しなかったが、北海道、九州においては、同センターに配置された者を中心に大量の不採用者が出た。

なお、昭和六一年一一月に横浜鶴見人材活用センターにおいて発生した傷害事件について、国労所属組合員が逮捕・起訴されたが、無罪判決が確定した。右事件は、当時の国鉄当局が国労組織の弱体化をねらったものであった。

(8) 採用拒否と採用差別

本件組合バッヂ着用が禁止されたのは、昭和六二年四月以降であるが、その前後数ヶ月間に差別事件が集中的に発生しているのである。例えば、同年二月一六日、国鉄は、設立委員に対し、「新会社に採用すべき者」の名簿を提出し、設立委員会は、国鉄の提出した名簿に記載された者全員を採用したが、その結果、全国で国労所属組合員が集中的に不採用とされた。特に、北海道、九州における国労差別は著しく、労働委員会から救済命令が発せられている。

(9) 新幹線支部の各分会役員等に対する差別的配属

国鉄当局は、昭和六二年三月一〇日ころ、設立委員から採用内定を受けていた新幹線の現業職員に対し、新たな配属決定を行ったが、国労職員に対する差別的配属は明らかであったため、労働委員会から救済命令が発せられている。

(10) 各JR会社の分割民営化直後の不当労働行為

さらに、昭和六二年夏から秋にかけて、東日本旅客鉄道株式会社と被控訴人の双方で、国労所属組合員をねらった出向事件が発生し、労働委員会から救済命令が発せられている。これらの差別事件は、国鉄とJR会社が実質的に連続した人員により経営されており、少なくとも、分割民営化直後は、国鉄当局、国鉄幹部が持っていた国労敵視の感情がそのままJR会社の被幹部に引き継がれたことを示しており、本件組合バッヂの着用禁止もこの時期にJR会社を覆っていた「国労敵視」の不当労働行為意思の発現であるとみるのが当然である。

(11) 新会社での新たな「共同宣言」

被控訴人は、昭和六二年四月三〇日、東海旅客鉄道組合連合会及び東海鉄輪会との間で、「共同宣言」を締結したが、この宣言は、国鉄時代の「第二次共同宣言」を受け継ぐもので、国労を排除し、国労組織そのものの解体までも明言している。

(12) 被控訴人の葛西取締役企画本部長の発言

被控訴人の葛西取締役企画本部長は、昭和六二年五月二三日、静岡の商工会議所の会議室で開催された現場長会議において、新会社発足が円滑に進んだ理由として、「K(国労)の崩壊があげられる。もしKが一年前の勢力であったならば、うまくはいかなかったと思う。」と発言した。

(13) 被控訴人須田社長の発言

また、被控訴人の須田社長は、昭和六三年一月のJR東海労組の機関紙において、「東海労の方とは、「同じ船に乗り、しかも同じ方向に櫓をこぎだしている」間柄だと思っております。」等と述べ、特定の組合をバックアップすることを表明している。

(14) 現場管理者の言動

そして、被控訴人の現場の管理者は、本件組合バッヂをはずさせるため、次のような異常な言動をとった。東京保線所では、田村所長が、昭和六二年四月二日、東京支所に勤務していた久保に対し、約六時間にわたり本件組合バッヂをはずすよう執拗に言い、その中で、「突っ張っているんじゃない。首をかけてやる覚悟してやってんのか。」などと述べ、同月八日、小田原支所において、国労所属組合員の伊藤及び小沢を個別に呼び出し、支所長と助役の同席するところで、伊藤に対しては、「おめえは首覚悟でやっているのか」「おれと心中する度胸があるくらいの気持ちでつけているのか」などと述べ、小沢に対しては、「子供も奥さんもいるのだから、首になったら困るだろう。」と述べ、同月二一日、小田原支所の平塚管理室において、作業中の国労所属組合員佐嵜に対し、「バッヂを着けて仕事をしても、仕事じゃない。」と述べた。東京保線所小田原支所の市川支所長は、同月九日、国労所属組合員の小林を会議室に呼び出し、丸山及び池谷両助役とともに、「組合バッヂをはずしなさい。」「目障りだから業務に支障があるのだ」等と述べた。東京第二運転所の渡辺総務課長は、同年五月ころ、国労所属組合員の吉沢に対し、「(本件組合バッヂを指で指しながら)こんなものを着けているからお前は運輸部に配属されたのだ。」と述べた。東京電気所では、信号通信工事科戸枝助役が、斉藤義和に対し、同年三月三一日、「明日の入社式でバッヂを着けている者には社員章を渡さない。」と述べ、翌日入社式でも、社員章を渡す前に二回ほど「そのバッヂをはずしなさい。」と述べたが、結局本件組合バッヂをはずさなかった同人にも社員章を手渡した。また、東京電気所電力課長は、国労所属組合員の遠藤を就業時間中に何度も呼びつけて、「就業規則に定められているのだから、バッヂをはずしなさい。」と執拗に求め、さらに、同人を含めて本件組合バッヂ着用者を見かける都度、「そのまま着けていると、重大な処分をしなければならない。」と再三再四処分をほのめかした。

(15) 職員管理調書による国労差別

国鉄は、昭和六一年三月、国鉄職員の勤務を評定するために職員管理調書を作成するよう通達を発した。その内容は、基本事項、特記事項、評定事項に分かれ、特記事項には、一般処分と労働処分が記載されることとなっているが、特に労働処分については、昭和五八年七月二日処分通知を行った「五八・三闘争から記入すること」とされた。動労は、当初国労と同様に分割民営化に反対して闘ってきたが、方針を転換し、労働処分を受けた最後の闘争は昭和五七年一二月のストライキであり、昭和五八年三月二六日に処分が通知された。したがって、右通達によれば、同月以降も闘争を展開した国労所属組合員についてのみ労働処分の記載がされることになるのであり、動労との共同宣言締結後に職員管理調書の作成の通達が発せられたことも考えあわせると、職員管理調書の作成が国労所属組合員を不利に扱うように仕組まれたことは明白である。すなわち、「昭和五八年三月闘争」以外の労働処分を記載させるということ自体が、動労所属組合員についてははじめから評定対象から外し、国労所属組合員についてのみ労働処分を評定の対象とすることを意味するのであって、国鉄はこのことを十分認識してこのような職員管理調書を作成したのである。

(16) 本件就業規則による組合バッヂ着用禁止のねらい

本件措置の根拠である本件就業規則は、次のような経過で作成された。すなわち、国鉄は、昭和六一年一二月三日、本社内に東海旅客鉄道株式会社設立準備室を設置し、この準備室において、国鉄職員が本件就業規則を作成したものであり、実質上国鉄当局が国労等との労使関係をふまえて本件就業規則を作成したものである。その上で、右設立準備室は、昭和六二年三月二六日付けの事務連絡により、組合バッヂ等は着用させないこととの指示を行った。この事務連絡は、形式的には、すべての社員に及ぼすものではあっても、この時期には、鉄道労連の組合員は、一人も組合バッヂを着用していない状態にあり、国労及び国労所属組合員にねらいを定めて行われたものである。」

第三  争点に対する判断

一  争点1に対する判断

1  本件措置に至る経緯

争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(証拠は認定事実の後に括弧書きで示した。)。

(一) 国鉄改革の概要

国鉄は、昭和三九年以降に赤字経営の状態に落ち込み、昭和五九年には、債務額は二二兆円に達した。そのため、昭和五五年ころから国鉄の赤字が問題となり、昭和五七年ころからは国鉄を分割民営化するとともに、職員を大幅に削減しようとする動きが出てきた。すなわち、第二次臨時行政調査会第四部会は、昭和五七年五月一七日、国鉄の分割民営化などの報告を提出し、第二次臨時行政調査会は、同年七月三〇日、これに基づいて第三次答申(基本答申)を行った。基本答申は、国鉄財政の現状とその原因に触れた上で、国鉄に最も必要なこととして、①経営者が、経営責任を自覚し、それにふさわしい経営権限を確保し、企業意識に徹し、難局の打開に立ち向かうこと、②職場規律を確立し、個々の職員が経営の現状を認識し、最大限の生産性を上げること、③政治や地域住民の過大な要求等外部の介入を排除することなどの三点を上げ、「これらのことは、単なる現行の公社制度の手直しとか個別の合理化計画では、実現できない」「新しい仕組みについての当調査会の結論は、現在の国鉄を分割民営化することである。」とした。基本答申は、「新形態移行までの間緊急にとるべき措置」として一一項目(いわゆる緊急一一項目)を指摘し、その中に、「職場規律の確立を図るため、職場におけるヤミ協定、悪慣行(ヤミ休暇、休憩時間の増付与、労働実態のともなわない手当、ヤミ専従、管理職の下位職代務等)は全面的に是正し、現場協議制度は本来の趣旨にのっとった制度に改める。また、違法行為に対しての厳正な処分、昇給昇格管理の厳正な運用、職務専念義務の徹底等人事管理の強化を図る。」とする項目が含まれていた。これを受けて、内閣は、同年九月二四日、国鉄の事業の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について閣議決定を行い、当面の対策として、職場規律の確立等については、「(1)職場におけるヤミ協定及び悪慣行については、総点検等によりその実体を把握し、直ちに是正措置を講ずる。(2)現場協議制度については、業務の正常かつ円滑な運営に支障が生じないよう改めることとし、所要の措置を講ずる。(3)職員の信賞必罰体制を確立し、人事管理のいっそうの強化を図る。」等を定めた。その後、昭和五八年六月一〇日、日本国有鉄道再建監理委員会が設置され、同委員会は、同年八月二日、「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する報告を提出し、その中で、国及び国鉄が緊急に講じなければならない措置の実施方針について、経営管理の適正化、事業分野の整理、営業収支の改善及び債務増大の抑制という三つの視点から意見をとりまとめ、経営管理の適正化の一つとして職場規律の確立を取り上げ、「職場規律は、およそ組織体が円滑に運営されていくための基盤であり、そこに乱れがあるという状態では、国鉄事業の再建は到底おぼつかない。よって、職場規律については、現在行われている措置を着実に推進するとともに、幹部職員が積極的に現場と接触するほか定期的な総点検を行うこと等により早急に組織全体への浸透を図るべきである。」と提言するなどした後、昭和六〇年七月二六日、「国鉄改革に関する意見」を政府に提出し、その中で、鉄道旅客事業を全国六地域に分割し、民営化すること、その実施時期を昭和六二年四月一日とすること、国鉄が新事業体に移行することにより約九万三〇〇〇人の余剰人員が生じるため、その対策を講じるべきことなどの意見を表明した。政府は、昭和六〇年七月三〇日、これを受けて、国鉄改革関連九法案を国会に提出し、うち日本国有鉄道改革法等の八法案は昭和六一年一一月二八日に成立し、同年一二月四日に公布された。これにより、国鉄の鉄道事業の大部分は、昭和六二年四月一日をもって被控訴人を含む新事業体に引き継がれた。

(甲第六、第二六〜三五、第四五号証、乙第一〇号証)

(二) 分割民営化に至る国鉄労使の状況

(1) 昭和五六年一〇月、一一月に開かれた第九五回国会の衆議院及び参議院の行財政改革に関する特別委員会において、国鉄のヤミ慣行、ヤミ協定、ヤミ休暇、ポカ休等が取り上げられ、職場規律の問題が指摘された。また、昭和五七年三月ころからは新聞雑誌に国鉄のポカ休、ヤミ手当や現場協議における管理者の吊し上げ等の職場規律の乱れに対する厳しい批判記事が連続的に掲載された。

国鉄職員局長は、昭和五六年一一月九日、各鉄道管理局長らに対し、一部の職場において依然として規律の乱れが改善されず、国民・世論から厳しい批判を受けているのは誠に遺憾であるとして、職場規律維持のための具体的措置を講じるように求め、同月一六日、職員管理に関する事項について総合的に調査、審議し、その推進を図るため本社内に職員管理委員会が設置され、今後の経営改善の基本をなす職員管理について、本社内各局が一体となって、対策を徹底し、推進を図っていくことになり、国鉄副総裁は、昭和五七年一月二八日、各機関の長に対し、「現在国鉄は、その存立をかけて再建に取り組んでいる極めて重要な正念場にあるということに深く思いを致し、この際正すべきは正し、難局を切り拓いて行くよう、努力されたい」旨「業務管理の適正について」と題する通達を発して、業務管理の適正化を指示した。

(甲第八〜第一〇、第一二〜第一六号証、乙第一一五〜第一一九号証)

(2) 運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し、「いわゆるヤミ手当や突発休、ヤミ休暇、現場協議の乱れ等の悪慣行などについては、誠に遺憾なことであり、これら全般について実態調査を行う等総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講じることが必要である」旨指示した。これを受けて、国鉄総裁は、同月五日、各機関の長に対し、職場規律の総点検と是正を指示する通達を発した。この総点検は、全現業機関四八三一箇所を対象として行われたが、その報告内容によって、職場規律の乱れがそれまで本社が把握していた程度を超えるものであることが判明したことから、悪慣行、ヤミ協定の即時解消、現場協議の乱れの抜本的是正、現場管理者のバックアップ体制の確立、職場管理体制の充実に緊急に全力をあげて取り組むこととした。その後、国鉄は、昭和六〇年九月までの間に八次にわたり職場規律の総点検を行ったが、いずれの総点検においても組合バッヂの着用状況についての調査項目はなかった。

(乙第一二〇〜第一五七、第一九六号証)

このような動きと平行して、国鉄は、現場協議制度が悪しき労使関係を生み出してきたとして、昭和五七年七月、各労働組合に対し、同年一一月三〇日に有効期間が満了する「現場協議に関する協約」の改訂を申し入れて、「現場協議委員会に関する協約(案)」を示し、右同日までに結論が得られない場合には、再締結する考えのないことを通告した。動労、鉄労及び全施労は、右改訂案どおりの協約を締結したが、国鉄と国労との交渉は決裂し、国労について右協約は同年一二月一日に失効した。

(丙第五〜第九号証、証人嶋田俊男(原審))

(3) 国労、動労、全施労、全動労は、分割民営化の動きに反対の態度を示し、昭和五七年三月九日、「国鉄再建問題四組合共闘会議」を発足させ、同月一二日、国鉄総裁の同月五日付け通達に抗議を申し入れた。

また、国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和五九年八月一〇日、二時間のストライキを実施したほか、昭和六〇年春ころ、ワッペン着用闘争を行った。国鉄当局は、ワッペン着用闘争について、同年九月一一日、五万九二〇〇人の国労所属組合員に対して処分通告を行い、また、同年一〇月五日、日本国有鉄道再建監理委員会の意見書に対する抗議行動に関して、国労所属組合員六万四一二六人、全動労二〇五人、動労二七人等の処分を通告した。

これに対し、鉄労は、昭和五九年六月二七日の中央委員会で「地域本社制の導入」を提案し、昭和六〇年八月の定期大会において、国鉄の分割民営化を支持する方針を決定した。

(甲第六一号証、乙第一〇号証)

(4) 国鉄は、昭和六〇年一一月三〇日、余剰人員対策に積極的に取り組んできた動労、鉄労及び全施労との間に、期限を昭和六二年三月三一日として、雇用安定協約を締結したが、国労が右対策に非協力であることを理由に、雇用安定協約を再締結できないことを通告し、両者間では同年一二月一日以降無協約の状態になった。

(甲第四〇〜第四二号証)

(5) 国鉄は、昭和六一年一月一三日、動労、全施労及び鉄労との間で、「労使共同宣言(第一次)」を締結した。その内容は、「雇用安定の基盤を守るという立場から、国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は以下の事項について一致協力して取り組むことを宣言する。」とし、諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、点呼妨害等企業人としてのモラルにもとる行為を根絶すること、必要な合理化は労使が一致協力して積極的に推進すること、余剰人員対策については、派遣制度、退職勧奨を積極的に推進することなどが掲げられていた。国鉄は、同日、国労に対しても、同内容の「共同宣言(案)」を提示したが、国労は、その締結を拒否した。

(甲第四三号証、乙第二六、第四三号証)

(6) 国鉄は、昭和六一年三月五日、各機関の長に対し、職場規律の総点検の集大成として、個々の職員の実態把握を統一的に行うため職員管理調書を作成するよう通達を発した。それは、調査対象を同年四月二日現在の職員、調査対象期間を昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までとし、基本事項、一般処分、労働処分等を含む特記事項のほか、評定事項として、業務知識、技能、責任感、協調性、職場の秩序維持、服装の乱れ、勤務時間中の組合活動等二一項目について記入することとされていたが、組合バッヂについては触れられていなかった。

(乙第二五、第一五八号証、丙第一七号証、証人石塚正孝(原審))

(7) 鉄労、動労、全施労及び真国鉄労働組合(昭和六一年四月一三日に東京地本から脱退したものを中心に結成した。)は、同年七月一八日、国鉄改革労働組合協議会(以下「改革労協」という。)を結成した。そして、国鉄は、同年八月二七日、改革労協と「第二次労使共同宣言」を締結した。その内容は、改革労協は、国鉄経営の現状に鑑み、鉄道事業再生のための現実的な処方箋は、「民営・分割」による国鉄改革を基本とするほかないという認識を持つに至り、故に労使は、信頼関係を基礎に、国鉄改革の実施に向かって一致協力して尽力すること、労使は、「国鉄改革労使協議会」が今後の鉄道事業における労使関係の機軸として発展的に位置づけられるよう、緊密な連携、協議を行い、改革労協は、今後争議権が付与された場合においても、鉄道事業の健全な経営が定着するまでは、争議権の行使を自粛すること等というものであった。

(甲第四四号証、乙第二六号証)

(8) 国鉄総裁は、昭和六一年八月二八日、動労が第一次及び第二次の労使共同宣言を締結し、「民営・分割」による国鉄改革に協力を約束するとともに、動労が提起した係争中の訴訟三〇数件について紛争状態を解消したいとの申し出をしてきたことなどを理由として、二〇二億円訴訟(昭和五〇年一一月二六日から同年一二月三日まで行われた「スト権スト」に関し、国鉄が昭和五一年二月に国労及び動労に対して、それによって発生した二〇二億円の損害賠償の支払を求めた訴訟)について、動労に対するものを取り下げ、「これまで動労がとってきた労使協調路線を将来にわたって定着させる礎としたい」旨の談話を発表し、昭和六一年九月三日、動労に対する右訴訟を取り下げた。

(乙第一〇、第二七号証)

(9) 国労は、昭和六一年一〇月九、一〇日に伊豆修善寺において臨時全国大会を開催したが、雇用と組織を守るために「大胆な妥協」をし、分割民営化の推進を内容とする「労使共同宣言」の締結を提案した執行部案は否決され、引き続き国鉄の分割民営化に反対する方針が確認された。

(甲第五四号証、乙第三六、第三七号証)

(10) 動労、鉄労は、昭和六二年二月二日、日本鉄道労働組合、鉄道社員労働組合などとともに鉄道労連を結成した。

(乙第三四、第三五号証)

(11) 国労は、昭和六一年四月一日において組合員数一六万五四〇三人、組織率68.6パーセントであったが、昭和六二年二月一日には組合員数六万二一六五人、組織率27.3パーセント、同年四月一日には組合員数四万四〇一二人に減少した。

国労を脱退した者は、同年二月二八日、鉄道産業労働組合を結成したり、鉄労、動労などに加入するなどした。

(乙第二三、第二四号証)

(三) 被控訴人における労使関係の状況

(1) 被控訴人は、昭和六二年四月三〇日、東海旅客鉄道組合連合会及び東海鉄輪会との間で、「東海旅客鉄道株式会社の経営基盤確立に向けて(共同宣言)」を締結した。この中で、被控訴人の労使関係について、被控訴人の発展のためには、相互の理解と信頼に基づいた対等な労使関係の確立が重要であり、そのために労使は、企業内における問題は自主的に解決するという大原則に立ち、忌憚ない意見交換を行うが、「その際、国鉄時代の旧弊を廃すること」、労使は「経営協議会」における議論を充実させ、これが今後の被控訴人の労使関係の機軸として発展的に位置づけられるよう、緊密な連携、協議を行い、東海旅客鉄道組合連合会及び東海鉄輪会は、協調的な労使関係を基礎とした組織の完全統合への一層の努力を払うことを宣言した。

(丙第一号証)

(2) これに対し、国労は、新会社である被控訴人発足後も分割民営化に反対の方針で臨んだ。

(乙第一九四号証)

(四) 本件就業規則の制定等

(1) 国鉄は、昭和六一年一二月三日、本社内に東海旅客鉄道株式会社設立準備室を設置し、この準備室において、本件就業規則の原案を作成し、昭和六二年三月二四日に行われた被控訴人の創立総会において本件就業規則が制定された後、同月一三日までに関係箇所に備え付けられたほか、同年四月一日の始業時刻に社員個人用の本件就業規則の抄録が配布され、同日に配布不可能な者については、翌日以降可及的速やかに配布された。被控訴人は、同月一日、社達第一号により本件就業規則を施行するとともに、総達第九号により本件賃金規定を施行した後、労働組合の意見聴取を経て、本件就業規則を所轄労働基準監督署に届け出た。

(甲第一、第六、第五六号証、乙第一〇、第一八、第一〇五、第一〇六、第一一一、第一一二、第一八九号証)

(2) 期末手当の支給額は、本件賃金規程一四三条及び一四五条の規定に基づき、成績率により増額又は減額されるが、減額については、懲戒処分(減給、戒告)及び訓告のほか、勤務成績が考慮されるところ、勤務成績については、減率適用者調書が作成され、その中で、厳重注意を含む賞罰、服装違反の注意回数、業績、態度等について具体的に記載されている。

(丙第一四号証の六、七、証人伊庭昌広(原審))

(3) なお、被控訴人は、昭和六二年四月、各労働組合との間に、同内容の労働協約を締結したが、労働協約六条には、組合員(専従を除く。)は、被控訴人から承認を得た場合を除き、勤務時間中に組合活動を行うことはできない旨の定めがある。

(甲第三号証、証人伊庭昌広(原審))

(五) 組合バッヂの着用状況

(1) 東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、指令第六号により、その時点では国鉄改革法案が衆議院を通過し、参議院の審議に入った段階であったが、この段階での当面のたたかいとして、「国労バッヂの完全着用を図ること」などを指令し、また、昭和六二年三月三一日、指示第一六〇号により、「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などの指示を出した。また、同年一〇月一九日から開催された東京地本定期大会において示された一九八七年度(昭和六二年度)運動方針(案)において、青年部活動の強化の一つとして、「国労バッヂの全員着用にむけ職場での学習・討論を深めます。」との内容が示されていた。

(甲第五、第五九、第六〇号証)

(2) 国鉄時代には、国労以外の他の労働組合も組合バッヂを作成し、組合員に配布しており、各労働組合の組合員は、組合バッヂを着用していたが、被控訴人が発足した同年四月には、国労以外のほとんどの他の労働組合の組合員は、組合バッヂを外しており、同月下旬には、組合バッヂを着用していたのは、国労所属組合員のみという状況であったが、国労所属組合員であるという連帯感を互いに確認し合って、仲間意識、組合意識を高め、国労のもとに団結するシンボルとして着用されていた。

動労や鉄労により組織された鉄道労連は、組合バッヂを定め、被控訴人が発足した昭和六二年四月一日付け組合機関紙上で、「着けよう鉄道労連バッヂ」というキャンペーンを行ったが、ごく一時的に着用した例外を除き、ほとんどの組合員は同日以降右組合バッヂを着用しなかった。

(乙第八四、第一〇〇、第一〇一、第一九三、第一九六〜第一九九号証、丙第一二、第五八号証、証人石塚正孝(原審)、同山本好明(原審)、同嶋田俊男(原審)、同吉沢毅(原審)、同樫村潔(当審)、同久保幸二郎(当審)、同今泉秋雄(当審))

(3) なお、JR東海労働組合(前記JR東海労組から離脱した社員が結成した労働組合)の組合員が、平成四年春ころから平成五年夏ころまでの間、市販されている金色のターンクリップを胸に着用する集団行動を行ったことがあったが、被控訴人からの注意により、着用しなくなった。

(丙第四二、第四三号証、証人石塚正孝(原審))

(六) 組合バッヂ着用規制の経過

(1) 東海旅客鉄道株式会社設立準備室の山田室長は、昭和六二年三月二六日、関係各人事、厚生(担当)課長に宛てて、「社章の着用について」と題する事務連絡を行い、その中で、社章を同年四月一日の始業時から、勤務時間中は全社員着用することなどのほか、組合バッヂ等の着用はさせないことを連絡し、この指示を受けた新幹線総局は、同月三〇日、労働課長名で各長に宛てて、本件就業規則二〇条三項で組合バッヂの着用を禁止していることを全社員に同日以降掲示等により周知徹底させることを指示し、各長は、各職場に、組合バッヂの着用の禁止とこれに従わない場合の懲戒の対象となることを掲示した。

さらに、同準備室青柳名で、同年三月三一日、関係各総務担当課長に対し、「社章、氏名札及び組合バッジ等の着用状況報告について」と題する事務連絡を行い、同年四月一日に勤務を開始する現業社員の、社章、氏名札及び組合バッヂ等の着用状況を報告するよう求めた。

そして、被控訴人は、同月九日に各機関の総務担当課長に対し、同月一〇日に各総務担当課(科)長及び各庶務助役に対し、それぞれ総務課長名で、「特に着用を認める胸章、腕章等について」と題する事務連絡を行い、勤務時間中又は会社施設内において着用することができる胸章、腕章等の範囲を明示し、組合バッヂが含まれないことを示した。

(乙第一六二〜第一六五、第一七三〜第一七八、第一九〇、第一九一、第二〇〇号証)

(2) 被控訴人は、服装の整正を指導しているにもかかわらず、勤務時間中に組合バッヂを着用したり、社員研修センター入所中に組合バッヂを着用している社員が見受けられるのは、企業人としての意識改革が不十分であるとして、昭和六二年四月一三日、総務部勤労課長から各人事(担当)課長に宛てて、また、新幹線運行本部長から現場長に宛てて、「組合バッヂ着用者等に対する注意・指導について」と題する事務連絡を行い、勤務時間中に組合バッヂを着用している社員に対しては、本件就業規則三条第一項、二〇条三項、二三条に違反する行為であることを通告し、直ちに取り外すよう注意・指導を繰り返すこと、注意・指導に際しては、社員個別に行い、その状況を克明に記録すること、それにもかかわらず取り外さない場合には、本件就業規則違反として懲戒処分もあり得ることを通告すること、社章・氏名札不着用者に対しても、同様に注意・指導を徹底すること、これを行わない現場長、助役は労働契約不履行となることなどを連絡した。

被控訴人は、同月二二日、事務連絡により、社章、氏名札及び組合バッヂ等の着用状況を報告するよう求めた。

右二回の調査で報告された被控訴人の社員で組合バッヂを着用していた者は、同月一日時点で三七〇人、同月二四日時点で一七一人であり、そのほとんどが国労所属組合員であった。被控訴人は、このように違反者がいるため、同年五月六日に各人事(担当)課長に宛て、同月七日に各長に宛てて、事務連絡を行い、同年四月一四日以降、管理者から再三の注意・指導にもかかわらず、同年五月六日に至ってもなお勤務時間中に組合バッヂを着用したり、社章・氏名札を着用しない社員を調査するよう指示し、調査結果については、本社においてヒヤリングを行い、さらに、同月二二日、調査対象期間を同年四月一日から同年五月二二日までとし、組合バッヂ等の実態調査表を提出するよう指示し、同月二三日にヒヤリングを行った。

(乙第一六六〜第一七二号証)

(3) 被控訴人は、右実態調査結果の報告を受けたが、被控訴人の社員全体で三八六人が組合バッヂを着用しており、このほとんどが国労所属組合員であった。被控訴人は、これを受けて、組合バッヂ着用者に対する処分(訓告六〇人、厳重注意三二六人)を決定した。この決定を受けた新幹線運行本部では該当者二一六人(但し、全動労所属組合員三人を含む。うち、訓告六〇人)の処分を行ったが、そのうち厳重注意の対象者に対しては、昭和六二年五月二七日ないし同月三一日の間に、理由を付して厳重注意を文書で行った。本件組合員等は、国鉄時代から自主的に本件組合バッヂを着用していたものであったが、昭和六二年四月一日以降同年五月下旬になっても本件組合バッヂを取り外さずに継続的に着用していたことが認められたため、被控訴人は、本件措置をするに至った。

(乙第一九六〜第一九八号証、丙第八三号証、証人吉沢毅(原審)、同斉藤義和、同久保幸二郎(いずれも当審))

2  右認定の事実によれば、被控訴人設立前の国鉄は、長年にわたる赤字額の累積により経営上の危機にひんして再建を迫られていたが、他方で、昭和五六年一〇月、一一月に開かれた第九五回国会の衆議院及び参議院の行財政改革に関する特別委員会において、国鉄のヤミ慣行、ヤミ協定、ヤミ休暇、ポカ休等が取り上げられ、職場規律の問題が指摘されたのみならず、昭和五七年三月ころからは、国鉄のポカ休、ヤミ手当や現場協議における管理者の吊し上げ等の職場規律の乱れに対する厳しい批判報道が相次いだため、これらの批判に応えるために種々の是正措置を講ぜざるを得ない状況に立ち至り、その後職場規律の確立を図るための諸施策を講じ、また、昭和五八年六月一〇日には日本国有鉄道再建監理委員会が設置され、同委員会の「国鉄改革に関する意見」を受けて、国鉄改革関連法案が制定、公布され、これにより、昭和六二年四月一日から、国鉄の鉄道事業の一部を引き継いだ被控訴人は、全社員を対象として、企業秩序の維持・確立を図るために、職場規律の乱れが指摘されていた国鉄時代とは異なる施策を採り、本件就業規則により組合バッヂの着用を禁止したものであるから、これには十分合理性があったと認められる。

そして、右認定の事実によれば、本件組合員等の本件組合バッヂの着用行為は、本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するものであり、本件組合員等にあっては、昭和六二年四月一日以降再三にわたり本件組合バッヂを着用しないように注意・指導されたにもかかわらず、同年五月下旬になっても本件組合バッヂを取り外さずに継続的に着用していたため、被控訴人は、本件組合員等に対し本件措置をとるに至ったものであるから、それはやむを得ないものであったと認められる。

したがって、右認定の事実からは、本件措置をもって、被控訴人が国労を嫌忌するがゆえに、国労の組織を弱体化させるために、支配介入した不当労働行為であるとは、認めることができない。

3  控訴人及び控訴人補助参加人等は、就業規則の解釈・適用は厳格かつ慎重に行われるべきものであり、本件就業規則二〇条三項、二三条の運用に当たっては、本件救済命令が判断したように「ただ会社(被控訴人)の一方的に定めた規則に違反したというだけでは足りず、バッヂの着用が具体的に職場の秩序を乱し、または業務の運営を阻害する等と認められる場合に限って発動させる配慮が必要である」というべきであるとして(前記事案の概要の「三 当事者等の主張」「2 控訴人」及び同「3 控訴人補助参加人等(二)」)、組合バッヂの着用行為は、それによって職場規律を乱し、又は業務運営の妨げとなる等のことが認められない限り、正当な組合活動であり、その着用を禁止することはできないものであり、本件組合員等が本件組合バッヂを着用することにより、右のような事実が認められないことは、前記事案の概要の「三 当事者の主張」「2 控訴人」及び同「3 控訴人補助参加人等(三)」記載の事情から明らかであって、本件組合バッヂの着用行為が、本件就業規則二〇条三項、二三条に実質的には違反しないにもかかわらず、被控訴人が本件措置に及んだことは、被控訴人が国労を嫌忌するがゆえに、国労の組織を弱体化させるために、支配介入した不当労働行為であると主張するので、以下これらの点について検討する。

(一)(1)  本件就業規則三条一項は「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」と規定し、同二〇条は、社員の服装の整正について定め、同条三項は、「社員は、勤務時間中に又は被控訴人施設内で被控訴人の定める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定し、また、同二三条は、「社員は、被控訴人が許可した場合のほか、勤務時間中に又は被控訴人施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定しているところ、被控訴人が行う鉄道事業は、国民の社会経済生活に不可欠のものであって公共性の極めて高い事業であるとともに、不特定多数の利用客の生命、身体及び財産の安全に深く関わるものであるから、同三条一項において職務専念義務を規定して、公共事業にふさわしい労務の提供と企業秩序の乱れから利用客の生命、身体及び財産の安全を脅かすような事態の発生することを防止するという観点から、社員に適正な職務遂行を求めるとともに、社員の服装の面から同趣旨を明らかにするため同二〇条三項の定めを置き、さらに、労働者は、就業時間中は使用者の指揮命令に服し労務の提供を行う義務を負うものであって、勤務時間中の組合活動は、原則として右義務に違反するものであるから、これを同二三条で明文で規定したことには合理性があるというべきである。

(2)  そして、少なくとも文言上形式的には、本件組合バッヂが右二〇条三項にいう「被控訴人が定める以外の胸章」に該当することは明らかであり、また、前記認定のとおり、本件組合員等は、国鉄時代から国労の指令等がなくとも本件組合バッヂを自主的に着用しているものであるが、そのような着用行為であっても、自己が国労所属組合員であることを顕示して組合意識を高め、国労の団結保持に資するためのものであるから、組合活動というべきであるが、特に、本件における本件組合員等の本件組合バッヂの着用行為は、分割民営化に反対する東京地本が昭和六二年三月三一日に出した「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などを内容とする指示第一六〇号に従い、本件組合員等が勤務時間中に国労所属組合員であることを顕示して組合意識を高めるために行われたものであるから、勤務時間中の組合活動であり、少なくとも文言上形式的には、右二三条に違反することも明らかであり、したがって、少なくとも文言上形式的には、本件組合員等の勤務時間中における本件組合バッヂの着用行為は、同三条一項にも違反するというべきである。

(3)  ところで、憲法二八条は、憲法二五条に定めるいわゆる生存権の保障を基本理念とし、労働者に対して人間に値する生存を保障するとの見地から、経済的劣位に立つ労働者に対し、実質的な自由と平等とを確保するための手段として、団結権、団体交渉権、争議権等のいわゆる労働基本権を保障するとともに、他方で、憲法二九条は、財産権の保障を規定しているのであって、憲法は、労働基本権を財産権との均衡関係において調和的に位置づけているのであるから、ここに労働基本権による財産権の制約を導き出す根拠があると同時に、労働基本権の保障についての限界もあるというべきであって、これら両者の間の調和と均衡が保たれるように、実定法規、労働協約、就業規則等を適切に解釈・適用しなければならない。

労働基本権のうち、団結権は、団体交渉権、争議権等の前提であるという意味において最も根元的なものであるというべきところ、団結権は、労働組合を結成し、加入する権利を主たる内容とするが、労働者個人及び労働組合が団結を維持するための団結権活動として組合活動を行う自由も含まれるというべきであるが、組合活動を行う自由については、その行使の仕方によっては、使用者の財産権の保障と衝突する場合があるので、これらの調和と均衡が図られるように配慮することが必要である。

被控訴人が制定した本件就業規則は、企業経営の必要上従業員の労働条件を明らかにするとともに、企業秩序を維持・確立することを目的とするものであるが、その解釈・適用に当たっては、前記憲法の趣旨に従い、団結権と財産権との調和と均衡が確保されるようにされなければならないところ、右各規定の目的に鑑みれば、形式的に右各規定に違反するように見える場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右諸規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である(最高裁判所昭和四七年(オ)第七七七号、同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一巻七号九七四頁参照)。

したがって、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為が、文言上形式的には本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反するようにみえる場合であっても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当であるが、そのような特別の事情が認められない限り、右各規定違反になるものといわなければならない。

(二)(1)  そこで、次に、本件において、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情があると認められるか否かについて検討するに、一般私企業において、従業員は、労働契約を締結して、労務提供のために企業に入ることを許されたものであるから、労働契約の趣旨に従って労務を提供するために必要な範囲において、かつ、企業秩序に服する態様において、勤務時間中行動することが認められているものであるところ、被控訴人の場合、第二次臨時行政調査会の基本答申、日本国有鉄道再建監理委員会による「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する報告等において指摘されているように、国鉄時代には、職場規律が弛緩し、ヤミ協定、悪慣行が存在していたことから、新会社においては、同じ轍を踏まないため、設立までには、これらを是正し、違法行為に対しては厳正な処分を行い、職務専念義務を徹底させることが求められていたのであり、このような是正措置の上に立って、新会社の運営が行われることが要請されていたものであること前記認定のとおりである。

(2)  したがって、本件就業規則三条一項の「社員は、被控訴人事業の社会的意義を自覚し、被控訴人の発展に寄与するために、自己の本分を守り、被控訴人の命に服し、法令・規定等を遵守し、全力をあげてその職務を遂行しなければならない。」という規定は、社員の職務専念義務という観点からは、社員は、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという職務専念義務を負うものであることを明らかにしたものであると解するのが相当である。

そして、労働契約においては、労務の提供の態様において職務専念義務に違反しないことは労働契約の重要な要素となっているから、職務専念義務に違反することは企業秩序を乱すものであるというべきであり、その行為が服装の整正に反するものであれば、本件就業規則二〇条三項に違反するといわなければならないし、また、それが組合活動としてされた場合には、そのような勤務時間中の組合活動は本件就業規則二三条、労働協約六条に違反するものといわなければならず、また、右規定違反が成立するためには、現実に職務の遂行が阻害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解するのが相当である。

(三)(1)  本件についてこれをみるに、証拠(乙第七五、第七六、第七八〜第八一、第一九三号証、丙第五八号証、証人樫村潔(当審))によれば、本件組合バッヂの形状は、縦1.1センチメートル、横1.3センチメートルで、黒地の金属板に、金色の線路の断面図が描かれたものに「NRU」の文字(国鉄労働組合を英訳した「NATIONAL RAILWAY UNION」のイニシャル)がデザインされたものであり、国労の組合バッヂは、結成後間もない昭和二三年に制定されたが、昭和四一年二月の第二〇回大会において、国労結成二〇周年を記念して、それまでのものを現在のデザインに変更することが決定されたものであって、本件組合バッヂは、国労に加入した際、国労手帳とともに組合員に無償で支給され、国鉄時代には、国労の指令等がなくとも、国労所属組合員は、自発的にこれを制服等の胸や襟に着用していたことが認められる。

このように本件組合バッヂは、そこに「NRU」の文字がデザインされているにすぎず、具体的な主義主張が表示されているわけではない。しかし、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為は、前示のとおり、組合員が当該組合員であることを顕示して本件組合員等相互間の組合意識を高めるためのものであるから、本件組合バッヂに具体的な宣言文の記載がなくとも、職場の同僚組合員に対し訴えかけようとするものであり、被控訴人の社員としての職務の遂行には直接関係のない行動であって、これを勤務時間中に行うことは、身体的活動による労務の提供という面だけをみれば、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないという被控訴人社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。また、同時に、勤務時間中に本件組合バッヂを着用して職場の同僚組合員に対して訴えかけるという行為は、国労に所属していても自らの自由意思により本件組合バッヂを着用していない同僚組合員である他の社員に対しても心理的影響を与え、それによって当該社員が注意力を職務に集中することを妨げるおそれがあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったといわなければならない。

また、本件組合バッヂの着用行為は、国鉄の分割民営化に反対する東京地本が昭和六二年三月三一日に出した「国労バッヂは全員が完全に着用するよう再度徹底を期することとする。」などを内容とする指示第一六〇号に従ってされたものであることに照らせば、使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員に対して、国労の団結を示そうとする意味があるものというべきであり、これにより、国鉄改革法に従って新会社の運営を推進しようとする使用者及び分割民営化に賛成した他の労働組合の組合員との対立を意識させ、そのことによってこれらの者が注意力を職務に集中することを妨げるおそれのあるものであるから、この面からも企業秩序の維持に反するものであったというべきである。

このような次第であるから、前示のとおり、前記各規定に違反するというためには、現実に職務遂行が害されるなどの具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないのであって、本件組合バッヂを着用した者が、顧客と接触の多い車掌であるか、あるいは、運転所、保線所、電気所など接客頻度の低い部署に所属する者であるかによっては、その違反の情状に差異が生じ得ることはあっても、前記各規定の違反の成否に差異を生じるものではないといわなければならない。本件組合バッヂの着用により現実の職務遂行に支障を生じるものではないから、本件組合バッヂの着用は前記各規定に違反するものではない旨の控訴人及び控訴人補助参加人等の主張は採用することができない。

(2) 次に、証拠(乙第一〇〇、第一一三、第一一四、第一九三、第一九四、第一九六〜第二〇〇号証、丙一二号証、証人伊庭昌広(原審)、同山本好明(原審))によれば、なるほど国鉄においては、職員の服装の整正について就業規則に、「六条(服装の整正)職員は、服装を端正にし、常に職員としての規律と品位を保つように努めなければならない(一項)。職員は、総裁(又はその委任を受けた者)の定めるところに従って、制服等を着用し業務に従事しなければならない(二項)。」、「服制及び被服類取扱基準規程」に、「一六条被服類には、腕章、キ章、服飾等であって、この規定に定めるもの及び別に定めてあるもの以外のものを着用してはならない。」と定められており、国鉄の就業規則等によって、組合バッヂについて、国鉄が認めた以外のキ章であるとしてその着用を禁止することは可能であったが、現場においては、各労働組合の組合員がそれぞれ組合バッヂを着用しており、国鉄が組合バッヂ着用を理由に処分したことは一度もなかったことが認められる。

しかし、証拠(乙第一八五号証、証人石塚正孝(原審)、同斉藤義和(当審))によれば、三島鉄道学園においては、組合バッヂの着用は禁止されており、現場においても昭和四四、四五年ころには組合バッヂの着用を規制する動きもあったり、昭和六〇年一一月及び昭和六一年九月には、新幹線東京車掌所の職員に対して組合バッヂを着用しないよう掲示したことなどにより、昭和六一年秋以降着用しなくなったということもあったことが認められ、これらの事情に照らせば、右の事実からは、必ずしも、国鉄当局において勤務時間中の組合バッヂ着用が権利として認められていたとまで認めることはできない。

そして、職場規律の総点検項目や職員管理調書に組合バッヂ着用が明示されていなかったことは、前記認定のとおり(1(二)(2)、(6))であるが、それは是正すべき諸問題が多数あったために明示されなかったにすぎないことが窺われるし、そもそも、国鉄時代の職場規律の弛緩を反省し、従来は労使慣行として行われてきたことについて見直しを図り、新会社である被控訴人において企業秩序の維持・確立を図るための一環として、組合バッヂの勤務時間中の着用を禁止することには、合理的な理由があるというべきであるから、新会社である被控訴人において、改めて勤務時間中の組合バッヂの着用を禁止したことは、なんら非難されるべきことではないといわなければならない。

(3) さらに、控訴人補助参加人等は、国内外の鉄道関係組合の組合員が勤務時間中に組合バッヂを着用していることを指摘して、本件組合バッヂの着用規制を不当であると主張し、丙第五一(鑑定意見書・アメリカ合衆国における組合バッジ着用問題)、第五二(組合バッジ国際アンケート報告書)、第五三(アメリカの組合バッジと国労バッジ)、第五四(組合バッジに関する調査報告書)号証を提出し、証人石黒幸久及び同渡寛基の各証言(いずれも原審)を援用するが、本件における組合バッヂ規制の問題は、前示のような一連の国鉄改革問題から新会社である被控訴人の設立や組合バッヂの規制に至った経緯、規制の趣旨、目的を抜きにして、単なる組合バッヂの着用という一般論として抽象的に論じることはできないのであって、指摘された事実をもって、本件組合員等の勤務時間中における本件組合バッヂの着用を正当化し、勤務時間中における本件組合バッヂの着用規制を不当とすることはできない。控訴人補助参加人等の右主張は採用することができない。

(四) 以上のとおり、本件において前記特別の事情があるとは認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はないので、本件組合員等の本件組合バッヂの着用行為は、本件就業規則三条一項に違反するとともに、同二〇条三項、二三条にも違反するものであるといわざるを得ず、本件組合員等の本件組合バッヂの着用行為が同二〇条三項、二三条に違反しないにもかかわらず、被控訴人が本件措置に及んだものとして、本件措置が不当労働行為に当たるという控訴人及び控訴人補助参加人等の主張は採用することができない。

なお、中山和久の意見書(丙第七一号証)には、本件組合バッヂの装着がシンボルの装着であるとした上で、「使用者が守ろうとする利益の大きさと、労働者が被る不利益の大きさを比較考量する労働法の手法は、本件の場合には直接には妥当しない。なぜなら一方で、精神的自由としてのシンボルの装着は、計算できる利益とは最初から無関係だからである。……他方で、企業の業務運営にとって、具体的はもちろん、抽象的な危険すら論証できない阻害論を楯に、バッジの取り外しを命じ、外さないことを理由に不利益を課す行為は、衡量の対象になりようもない、二重の意味での団結権侵害行為以外のなにものでもない。」との見解の記載があり、証人中山和久(当審)は、同趣旨の証言をしている。しかし、団結権の保障は、一面において、結社の自由と結びついているものではあるが、その団結権の具体的な行使については、使用者の財産権の保障との調和と均衡が図られなければならないのであり、また、本件組合員等の本件組合バッヂ着用行為が企業秩序に違反する行為であることは前示のとおりであって、右と異なる同証人の右見解は、採用することができない。

4  控訴人補助参加人等は、国鉄及び職場規律の乱れとして取り上げられた問題は、国鉄当局の管理の乱れに原因があったのであり、それにもかかわらず、被控訴人が、職場規律を保持するためとして本件組合バッヂの着用行為を禁止し、本件措置に及んだことは、不当労働行為に該当すると主張する(前記事案の概要の「三 当事者の主張」「3 控訴人補助参加人(四)」)。

しかし、甲第二六号証によれば、第二次臨時行政調査会は、基本答申において、国鉄の経営悪化をもたらした原因として、①急激なモータリゼーションを始めとする輸送構造の変化に対して、国鉄は鉄道特性を発揮できる分野に特化すべきであったが、現実には、公共性の観点が強調され過ぎ、対応が著しく遅れてきたこと、②国会及び政府の過度の関与、地域住民の過大な要求、管理限界を超えた巨大な企業規模、国鉄自体の企業意識と責任感の喪失などの理由から企業性を発揮できず、いわゆる「親方日の丸」経営といわれる事態に陥ったこと、③労使関係が不安定で、ヤミ協定、悪慣行の蔓延など職場規律の乱れがあり、合理化が進まず、生産性の低下をもたらしたこと、④収入に比し異常に高い人件費比率、年齢構成のひずみからくる膨大な年金・退職金、累積債務に対する巨額な利子を挙げていることが認められ、その上で、基本答申は、現在の国鉄に最も必要なこととして、前記1(一)に認定したような内容を答申するとともに、緊急一一項目を指摘し、ヤミ協定、悪慣行を是正し、現場協議制を本来の趣旨にのっとった制度に改めるよう求めたものであり、国鉄経営の悪化の原因の一つとして、職場規律の乱れにより、企業としての合理化が進まず、生産性の低下を招いたことが含まれるとする指摘が不合理であると認めるに足りる証拠はない。また、控訴人補助参加人等が指摘する職場規律の乱れとして問題となった現場協議制の運用や組合所属職員が現場管理者の指示等に従わないといった問題についてみると、証拠(甲第八ないし第一〇、第一二ないし第一六、第六四号証)によれば、現実に労働組合員による職場闘争などにより、現場協議の場において現場管理者が吊し上げを受けたり、種々の事態が生起していることが認められ、このような事実に照らせば、右職場規律の乱れはひとり使用者の対応の仕方にのみ責任を帰せしめることはできない。以上の検討結果と、前記3に説示したとおり、勤務時間中に本件組合バッヂを着用することは、職務専念義務に違反し、企業秩序を乱す行為であること及び本件措置に至った前示の経緯に照らしてみれば、被控訴人において、国鉄時代と異なった企業秩序の維持・確立を図るため、その施策の一つとして組合バッヂの着用行為を規制することが不当であるということはできず、国鉄時代の職場規律の乱れの原因は管理の乱れにあるのであり、それにもかかわらず、被控訴人が右のとおり本件組合バッヂの着用を禁止し、本件措置に及んだことは不当労働行為に該当するという控訴人補助参加人等の右主張は採用しがたい。

5  控訴人は、本件組合員等の本件組合バッヂの着用行為について行われた本件措置が不相当に重大な不利益処分であると主張する(前記事案の概要の「三 当事者の主張」「2 控訴人」)。

しかし、前記のとおり、本件組合員等においては、昭和六二年四月一日以降再三にわたり本件組合バッヂを着用しないように注意・指導されたにもかかわらず、同年五月下旬になっても本件組合バッヂを取り外さずに継続的に着用していたことが認められたため、被控訴人は、企業秩序の維持・確立のため、本件組合員等に対し厳重注意を行ったものであるから、その違法性の程度に照らし、訓告より軽い厳重注意としたことは是認することができ、本件措置が不当であるということはできない。

次に、本件賃金規程一四五条三項にいう「勤務成績が良好でない者」とは、提供すべき労務の質及び量の面において、労働契約上要求される水準に達しないことをいうと解するのが相当であり、労務提供の態様も労働契約上要求されるところに従ってなされなければならないことはいうまでもないところ、厳重注意を受けた本件組合員等について、本件賃金規程一四五条三項にいう「勤務成績が良好でない者」として本件措置を行ったことは、前示のとおり、新会社である被控訴人設立の経緯に照らし、その合理的な企業秩序を維持・確立するための対応策として、不相当であるということはできない。また、本件全証拠によるも、本件組合員等が本件賃金規程二四条(昇給の欠格条項)の引用する別表第八に掲げる「勤務成績が特に良好でない者」に該当するものとして扱われたことを認めるに足りる証拠は見当たらないが、仮に、本件組合員等が、本件措置を受けたことにより、本件賃金規程二四条の引用する別表第八に掲げる「勤務成績が特に良好でない者」に該当するとされたとしても、前示の事実関係に照らせば、これが不相当であるということはできず、これをもって、不当労働行為(労働組合法七条一号、三号)と認めることはできない。いずれにせよ、本件措置が不当であるという控訴人の右主張は採用することができない。

なお、本件組合員等のうち、東京第二運転所に所属していた今泉秋雄(旧姓小林)は、昭和六二年四月一日は本件組合バッヂを着用していなかったが、それ以降着用し、「外しなさい。」と注意されても着用を続けていたが、研修センター三島分室に入所した同月一四日には、注意を受け入れてこれを外し、同年五月八日までは着用しなかったが、これ以降また着用するようになったものであるから、同様の評価を受けることもやむを得ないといわなければならない。

6  控訴人は、被控訴人が形式的には、国鉄と別個独立の法人であるといっても、国鉄の事業を引き継いだ会社であり、昭和六〇年七月に日本国有鉄道再建監理委員会の提言が提出された以降の労使関係の経緯をみれば、国鉄が国労を嫌忌していたことが容易に認められ、被控訴人はこれを引き継いで国鉄と同様の意図のもとに行動していたものであり、不当労働行為意思が認められると主張する(前記事案の概要の「三 当事者の主張」「2 控訴人」)。

しかし、企業秩序の維持・確立は、労務提供が完全になされるための基礎的条件であり、職場の安全管理の上からも重要なことであるから、被控訴人がこれを希求するのは当然のことであるが、被控訴人にあっては、前示のとおり、新会社として発足して以来、全社員に国鉄時代とは異なった企業秩序の維持・確立をめざしていたものであることが認められることに照らしてみると、被控訴人に不当労働行為意思があったと認めることはできない。

すなわち、前記認定のとおり、被控訴人設立前の国鉄時代には、長年にわたる赤字額の累積により経営上の危機にひんして再建を迫られていたが、他方で、昭和五六年一〇月、一一月に開かれた第九五回国会の衆議院及び参議院の行財政改革に関する特別委員会において、国鉄のヤミ慣行、ヤミ協定、ヤミ休暇、ポカ休等が取り上げられ、職場規律の問題が指摘されたのみならず、昭和五七年三月ころからは、国鉄のポカ休、ヤミ手当や現場協議における管理者の吊し上げ等の職場規律の乱れに対する厳しい批判報道が相次いだため、国鉄は、これらの批判に応えるために是正措置を講ぜざるを得ない状況に立ち至り、昭和五六年一一月九日、各鉄道管理局長らに対し、職場規律維持のための具体的措置を講じるように求め、さらに、運輸大臣の指示を受けて、国鉄総裁は、昭和五七年三月五日、職場規律の総点検と是正を指示する通達を発し、国鉄は、職場規律維持のため、昭和六〇年九月までの間に八次にわたり職場規律の総点検を行った。その間、第二次臨時行政調査会は、昭和五七年七月三〇日には、第三次答申(基本答申)を行い、その中で、「職場規律を確立し、個々の職員が経営の現状を認識し、最大限の生産性を上げること」との指摘をしたが、「新形態移行までの間緊急にとるべき措置」の一つとして、「職場規律の確立を図るため、職場におけるヤミ協定、悪慣行(ヤミ休暇、休憩時間の増付与、労働実態のともなわない手当、ヤミ専従、管理職の下位職代務等)は全面的に是正し、現場協議制度は本来の趣旨にのっとった制度に改める。また、違法行為に対しての厳正な処分、昇給昇格管理の厳正な運用、職務専念義務の徹底等人事管理の強化を図る。」とする項目が含まれていた。政府も、右答申を最大限に尊重し必要な措置をとる旨の閣議決定をするとともに、職場規律の確立のために職場におけるヤミ協定及び悪慣行については直ちに是正措置を講ずることを当面の緊急対策の一つとした。また、日本国有鉄道再建監理委員会が昭和五八年八月二日、「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する報告を提出し、その中で、国及び国鉄が緊急に講じなければならない措置の実施方針について意見をとりまとめ、経営管理の適正化の一つとして職場規律の確立を取り上げた。ところが、昭和六〇年九月までの八次にわたる職場点検の結果徐々に職場規律が図られたものの、なお不十分であったため、職員管理調書を作成し、職場規律の確立を図ろうとしたが、被控訴人が設立された創立総会において、本件就業規則が制定されたものの、なお、本件組合員等は、国鉄時代と同様に本件組合バッヂを制服の襟に着用しており、被控訴人が発足した後も、同様であった。そこで、東海旅客鉄道株式会社設立準備室の山田室長は、昭和六二年三月二六日、関係人事、厚生(担当)課長に宛てて、事務連絡を行い、その中で、社章を同年四月一日の始業時から、勤務時間中は全社員着用することなどのほか、組合バッヂ等の着用はさせないことを指示し、この指示を受けた新幹線総局は、同月三〇日、労働課長名で各長に宛てて、本件就業規則二〇条三項で組合バッヂの着用が禁止されていることを全社員に徹底させることを指示し、この指示を受けた各長は、組合バッヂの着用の禁止とこれに従わない場合には懲戒処分の対象となることを掲示した。このような対策を採ったにもかかわらず、同年四月一日時点における組合バッヂの着用者は、三七〇人であり、同月二四日時点における組合バッヂの着用者は、一七一人で、このほとんどが国労所属組合員であった。東京地本は、同年三月三一日、本件組合バッヂを全員着用するように指示し、このようなこともあって、国労所属組合員は現場管理者の注意に従わなかったものである。これに対し、被控訴人は、同年四月一三日、事務連絡を行い、勤務時間中に組合バッヂを着用している社員に対しては、本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反する行為であることを通告し、直ちに取り外すよう注意・指導を繰り返すこと、注意・指導に際しては、社員個別に行い、その状況を克明に記録すること、それにもかかわらず取り外さない場合には、本件就業規則違反として懲戒処分もあり得ることを通告することなどを指示した。これを受けて、現場管理者は、勤務時間中に組合バッヂを着用していた社員に対し、個別に注意・指導をしてきたが、本件措置を受けた者は、再三にわたる注意・指導にもかかわらず、本件組合バッヂを着用していた国労所属組合員であった。

なお、国労は、国鉄の分割民営化に一貫して反対する方針を採り、被控訴人発足後も分割民営化に反対する方針で臨んでおり、被控訴人とは対立的な状況にあって、このような状況において勤務時間中に本件組合バッヂを着用することは、同僚組合員に対して訴えかけ、組合員以外の社員に対しても心理的影響を与えるのみならず、労使間及び労働組合間の対立を意識させるものであって、職務専念義務に違反し、本件就業規則三条一項、二〇条三項、二三条に違反する行為であることは、前記3のとおりである。

以上の経緯からみるならば、被控訴人が、全社員を対象として、企業秩序の維持・確立を図るために、職場規律の乱れが指摘されていた国鉄時代とは異なる施策を採り、本件就業規則により組合バッヂの着用を禁じ、これに従わなかった本件組合員等に再三にわたり注意・指導を重ね、それにもかかわらず本件組合バッヂの着用を継続したことを理由として、本件措置に至ったことには十分合理性、相当性があったというべきであって、これにより被控訴人に不当労働行為意思があったと認めることはできず、控訴人の右主張も採用することはできない。

7  控訴人及び控訴人補助参加人等は、被控訴人の不当労働行為意思を推認させる具体的事情として、前記事案の概要の「三 当事者の主張」「2控訴人」及び同「3 控訴人補助参加人等(五)」記載のとおり主張するので、この点について検討する。

(一) 1に認定した事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる(証拠は認定事実の後に括弧書きで示した。)。

(1) 「第一次共同宣言」の締結と国鉄総裁の発言について

前記1(二)(5)のとおり。

(2) 葛西国鉄本社職員局次長の発言について

葛西国鉄本社職員局次長(現被控訴人代表取締役社長)は、昭和六一年五月二一日、動労東京地方本部各支部三役会議に出席し、「レーガンがカダフィーに一撃を加えました。あれで、国際世論はしばらく動きがとれなくなりました。私はこれから山崎(当時の国労の委員長)の腹をブンなぐってやろうと思っています。みんなを不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということはうまくやるということでありまして……」と発言した。

(乙第二九号証)

(3) 岡田機械課長の文書について

国鉄本社車輛局岡田機械課長は、昭和六一年五月、全国の各機械区所長に対し、機械部門が新事業体において存続できるようにするためには、職員の意識改革が必要であることを強調し、「①国鉄改革を完遂するには、職員の意識改革が大前提である。②職員の意識改革とは、端的に言えば、当局側の考え方を理解でき、行動できる職員であり、新事業体と運命共同体的意識を持ち得る職員であり、真面目に働く意志のある職員を、日常の生産活動を通じて作り込むということである。このような職員のみが、新事業体に明るい未来を約束する。③従って、当面職員の意識改革を行うということは、過去の労働慣行に基づく職員の意識と新事業体の進むべき道との間の闘いであり、必ずそこに労使の対決が生じ、これを避けて通ることは不可能である。④逆に言えば、労使対決、あるいは対決とまでゆかなくとも職員に対して言いにくいことを言うなどということを恐れていては、職員の意識改革は不可能であるということを肝に命ずべきである。⑤そのためには、管理者は自分の機械区は自分の責任において潰すのだという居直りが必要不可欠である。」とし、「どうか、職員に対して言いにくいことをズケズケ言って下さい。その結果、機械区が潰れてもかまいません。そのような機械区は、新事業体になったらいらないのです。」と記載した文書を配布した。

(乙第三〇号証)

(4) 国鉄総裁による国労非難について

杉浦国鉄総裁は、昭和六一年七月八日の動労大会及び鉄労大会、同年八月の全施労大会に出席し、動労大会では、「動労の皆さんの知性と勇気に心から御礼を申し上げます。国鉄の組合のなかにも「体は大きいが、非常に対応が遅い組合」があります。この組合と仮に、昔「鬼の動労」といわれたままの動労さんが今ここで手を結んだと致しますと、これは国鉄改革どころではない。そのことを想像するたびに、私は背筋が寒くなるような感じがします。……あらためて動労の皆さんに絶大なる敬意と賞賛の言葉を申し上げます。……私は総裁としての最大の責務のひとつは、真面目に仕事をしている職員を、一人たりとも絶対に路頭に迷わせないようにすることだと思います。」と挨拶し、鉄労大会では、「国鉄はマル生運動以降、苦難の歴史が刻み込まれた。生産性運動はまことに当然なことであるが、これをなぜ完遂できなかったのか、と反省している。しかし、この苦難のなかで終始一貫した信念と勇気と行動力の鉄労の存在は画期的であり、絶賛称賛したい。ほめてもほめすぎることはない。……余剰人員対策には万全を期したい。真面目な職員を一人たりとも路頭に迷わせてはならない。」と挨拶し、全施労大会では、「全施労の皆様方の今日の国鉄改革への協力につきまして心から感謝申し上げます。……これらの問題の解決のためには私共も努力すると同時に全施労の皆様方のご協力をいただきながら、真面目に働く職員が路頭に迷う様なことのない様、万全を期して参りたいと思いますので一層のご支援、ご協力を賜りたいと思います。」と挨拶した。

(乙第六〇、第六三、第六四号証)

(5) 第二次労使共同宣言の締結について

前記1(二)(6)のとおり。

(6) 二〇二億円訴訟の取下げについて

前記1(二)(8)のとおり。

(7) 人材活用センターへの差別的配属について

国鉄は、昭和六一年七月一日、合理化によって生じる余剰人員対策として、所要を上回る人数を一括管理するため「人材活用センター」を全国一〇一〇箇所に設置した。配置された職員を組合別にみると、同年一一月一日現在において、国労八一パーセント、動労七パーセント、鉄労六パーセントとなっている。当時の国労の組織率は国鉄全職員の四八パーセントであった。また、新幹線支部についてみれば、同支部の各分会の現役員、元役員を含む一一八人が配置された。

(甲第一号証、乙第四八〜第五五、第一〇七号証)

なお、昭和六一年一一月に横浜鶴見人材活用センターにおいて発生した傷害事件に関して、国労所属組合員が逮捕・起訴されたが、平成五年五月一四日、無罪判決が言い渡され、その後確定した。

(丙第四一号証)

(8) 採用拒否と採用差別について

国鉄は、昭和六二年二月一六日、設立委員会に対し、「新会社に採用すべき者」の名簿を提出し、設立委員会は、国鉄の提出した名簿に記載された者全員を採用したが、その結果、全国で国労所属組合員が不採用とされる割合が高かった。特に、北海道、九州における国労所属組合員の採用率は低く、北海道においては、改革労協の採用率が99.4パーセントであるのに対し、国労所属組合員の採用率は四八パーセント(なお、全動労の採用率は28.1パーセント)にすぎず、九州においては、国労所属組合員の採用率は約四三パーセントであった。

(乙第二〇、第二一号証)

(9) 新幹線支部の各分会役員等に対する差別的配属について

国鉄当局は、昭和六二年三月一〇日、東京第一運転所において国労に所属する職員のうち、現役員・元役員を中心に、六一人を警備に、六三人を兼務として営業・運輸に配属し、同月一六日ころ、東京第二運転所において国労に所属する職員のうち、四五人を運転士業務を兼務として、営業・運輸に配属し、国労所属組合員で運転士本務である一一四人の中から一八人を指名し、順番で警備の仕事につかせる措置をとり、また、そのころ、東京保線所において国労に所属する職員のうち、二七人を本来業務を兼務として、営業・運輸に配属した。また、東京電気所においては、昭和六一年六月ころには二百数十人の職員のほとんどが国労の分会に所属していたが、昭和六二年五月ころには、国労分会の所属者は九三人に激減した。

(乙第八六、第九七、第一〇三、第一〇九、第一一〇、第一九三、第一九六〜第一九八号証、丙第四六号証)

(10) 各JR会社の分割民営化直後の不当労働行為について

昭和六二年六月には、東日本旅客鉄道株式会社において、新宿車掌区事件が発生し、同事件について、同会社の国労所属組合員に対する降格処分と脱退強要が不当労働行為であったとする裁判が最高裁判所で確定し、さらに、同年夏から秋にかけて、同社と被控訴人双方で、国労所属組合員に対する出向事件が発生し、労働委員会から救済命令が発せられている。

(丙第三五号証)

(11) 新会社での新たな「共同宣言」について

前記1(三)(1)のとおり。

(12) 被控訴人の葛西取締役企画本部長の発言について

被控訴人の葛西取締役企画本部長は、昭和六二年五月二三日、静岡の商工会議所の会議室で開催された現場長会議において、新会社発足が円滑に進んだ理由として、「Kの崩壊があげられる。もしKが一年前の勢力であったならば、うまくはいかなかったと思う。……従って少しでも気持ちをゆるめると、又元のもくあみである。鉄道労連といえども数組合が結合しているのであり、いつこのなかからはみ出す組合がでるかもわからない。組合については、常に気をゆるめることのないように。」と発言した。

(乙第九八、第一九三号証、丙第二号証)

(13) 被控訴人須田社長の発言について

被控訴人の須田社長は、昭和六三年一月のJR東海労組の機関紙において、同労組の中島委員長代行との座談会の中で、「東海労の方とは、「同じ船に乗り、しかも同じ方向に櫓をこぎだしている」間柄だと思っております。「もうその船からはお互いに降りることが出来ない関係」だけにとどまらず、「力を抜けばJR東海丸は漂流してしまう関係」にあります。……これ(経営協議会)をこれからのJR東海の労使関係の機軸にしていかなければならないと思います。」等と述べた。

(丙第三号証)

(14) 現場管理者の言動について

東京保線所では、田村所長が、昭和六二年四月二日、東京支所に勤務していた久保幸二郎に対し、約六時間にわたり本件組合バッヂをはずすよう執拗に言い、その中で、「突っ張っているんじゃない。首をかけてやる覚悟してやってんのか。」などと言った。

また、同所長は、同月八日、小田原支所において、国労所属組合員の伊藤哲也及び小沢宣和を個別に呼び出し、支所長と助役の同席するところで、伊藤に対しては、「おめえは首覚悟でやっているのか。」「おれと心中する度胸があるくらいの気持ちでつけているのか。」などと述べ、本件組合バッヂの取り外しを強く求めたので、同組合員は一時本件組合バッヂを外したが、その後再度着用した。また、小沢に対しては、「子供も奥さんもいるのだろう。君が首になったら、家の人は困るだろう。」と言い、執拗に本件組合バッヂの取り外しを求めた。

さらに、同所長は、同月二一日、小田原支所の平塚管理室において、作業中の国労所属組合員佐嵜勝弘に対し、「バッヂを着けて仕事をしても、仕事じゃない。」と言った。

東京保線所小田原支所の市川支所長は、同月九日、国労所属組合員の小林富男を会議室に呼び出し、丸山及び池谷両助役とともに、「組合バッヂをはずしなさい。」と迫った。その際、小林が「組合バッヂを着用していると、どう業務に支障があるのか」と質問すると、同支所長は、「目障りだから業務に支障があるのだ」等と言った。

(乙第一九八、第二〇〇号証、丙第七四、第七五号証、証人久保幸二郎(当審))

東京第二運転所の渡辺総務課長は、同年五月ころ、国労所属組合員の吉沢毅に対し、ネクタイに着けていた本件組合バッヂを指で指しながら「そんなもの着けているようでは本務に戻れないぞ。」と言った。

同所に所属していた今泉秋雄(旧姓小林)は、昭和六二年二月に運輸部兼務となり、同年四月一日は本件組合バッヂを着用していなかったが、それ以降着用し、上司から外すように注意されても着用を続け、研修センター三島分室に入所した同月一四日には注意を受け入れてこれを外し、同年五月八日までは着用しなかったが、これ以降また着用するようになった。同人は、上司から「外しなさい。」とは言われたが、それだけで終わっており、「外さなくちゃだめだ。」とは言われなかったと受け止めている。

(丙第二九、第八三号証、証人吉沢毅(原審)、同今泉秋雄(当審))

東京電気所では、信号通信工事科戸枝助役が、斉藤義和に対し、同年三月三一日、「明日の入社式でバッヂを着けている者には社員章を渡さない。」と言い、翌日入社式でも、所長が社員章を渡す前に二回ほど「そのバッヂをはずしなさい。」と言ったが、結局本件組合バッヂをはずさなかった同人にも社員章を手渡した。

また、東京電気所電力課長は、国労所属組合員の遠藤邦彦を就業時間中に何度も呼びつけて、「就業規則に定められているのだから、バッヂをはずしなさい。」と執拗に求め、さらに、同人を含めて本件組合バッヂ着用者を見かける都度、「そのまま着けていると、重大な処分をしなければならない。」と再三処分をほのめかした。

(乙第一九八号証、丙第七六号証、証人斉藤義和(当審))

(15) 職員管理調書による国労差別について

前記1(二)(6)に認定した職員管理調書の特記事項に記載される労働処分については、昭和五八年七月二日処分通知を行った「五八・三闘争」から記入することとされたが、動労が最後に行った闘争は、昭和五七年一二月のストライキであり、その処分は昭和五八年三月二六日に通告されているので、右基準によれば、動労組合員の労働処分歴は右調書に記載されず、それ以降も闘争を展開した国労所属組合員のみが労働処分の記載がされることになった。

(乙第二五号証、丙第一七号証)

(二) 右(1)ないし(13)に認定した各事実(ただし、控訴人補助参加人等は、国鉄車輛局岡田機械課長が、昭和六一年五月、全国の各機械区所長に対し発した文書の「機械区は自分の責任において潰すのだ」という文言を、「機械区の国労を潰す」という意味であるとしているが、前後の状況と文章の全体からすれば、その意味するところは、所長が職員に対して言いにくいことをはっきり言うことにより、仮に労使対立が激化し、機械区としての機能が麻痺するような状況が発生した場合を想定して述べたものであり、「国労を潰す」ことを意味するものであると解することはできない。)、前記1(二)に認定した分割民営化に至る国鉄労使の状況及び同(三)に認定した被控訴人における労使関係の状況によれば、当時国鉄は、国鉄の分割民営化及びそれに伴う諸施策に反対し、ストライキやワッペン闘争を行うなどしていた国労との間で、熾烈な対立状況にあり、また、被控訴人が設立された後においても分割民営化に反対の態度を維持していた国労とは、対立的状況にあったことが認められる。

しかし、組合バッヂの着用禁止は、国鉄時代に職場規律の乱れが業務運営に好ましくない影響を与え、第二次臨時行政調査会の基本答申、日本国有鉄道再建監理委員会による「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する報告などでその是正が強く指摘されたため、新会社である被控訴人においては、その反省の上に立って、職場規律の確立を図り、職務専念義務の徹底等人事管理の強化を図ることを目的とした服装の整正の一環として、すべての労働組合の組合バッヂを対象として行われた前示の事実関係に照らせば、右のような国鉄及び被控訴人と国労とが対立状態にあったとの事実があるからといって、被控訴人が国労を嫌忌するがゆえに、本件措置が国労所属組合員をねらってされたものであると認めることはできない。

また、(14)に認定したとおり、被控訴人の現場の管理者が、本件組合バッヂを外させるために、種々の言動を行っていることが認められる。しかし、本件組合員等による勤務時間中の本件組合バッヂの着用が本件就業規則違反である以上、着用者に相当な方法により注意・指導を加えることは当然のことであるところ、前記認定の言動の中には、本件就業規則に違反する本件組合バッヂの着用を注意し、その取り外しを指導しようとするあまり、いきがかりとはいえ表現において穏当さを欠いていたり、感情的と思われる言動が見られた点があることは否定し得ないものの、そうであるからといって、これをもって、被控訴人の現場の管理者が国労を嫌忌するがゆえに、国労の組織を弱体化させるために支配介入したものであるとか、本件組合員等の正当な組合活動を制限しようとした行為であるとは認めることができない。

(三) なお、控訴人補助参加人等は、本件組合バッヂ着用が禁止されたのは、昭和六二年四月以降であるが、その前後数ヶ月間に差別事件が集中的に発生し、労働委員会から救済命令が発せられている旨を指摘して、本件措置が不当労働行為であると主張する(前記事案の概要の「三 当事者の主張」「3 控訴人補助参加人等(五)(8)」)が、右に説示したような諸事情に照らせば、本件組合員等の本件組合バッヂの着用行為を規制することには合理的な理由があると認められ、また、他の事件について不当労働行為が認められたとしても、本件はそれらの事件とは事案を異にするものであるから、本件と同一に論じることはできないのであって、他の事件について救済命令が発せられている例があるからといって、被控訴人が本件措置を行ったことについても不当労働行為であると認めることはできない。この点に関する控訴人補助参加人等の右主張は採用することができない。

(四) また、控訴人補助参加人等は、前記職員管理調書の特記事項中の労働処分の記入基準が、国労所属組合員のみを不利益に扱うように仕組まれたものであると主張するところ(前記事案の概要の「三 当事者の主張」「3控訴人補助参加人等(五)(15))、右(一)(15)の事実が認められるが、国鉄職員に対して行われた労働処分が正当なものであるならば、職員の管理上、それが考慮されるのはやむを得ないことであり、対象となる労働処分を右一定期間に限定することも不相当であるとはいい難いし、それにより実際に右基準に該当する職員が国労所属組合員に根られることになったとしても、それは結果的にそのようになったものであって、国労所属組合員のみをねらって不利益に取り扱うため意図的に仕組まれたとまでいうことはできないから、控訴人補助参加人等の右主張は採用することができない。

(五) さらに、本件就業規則の制定過程、東海旅客鉄道株式会社設立準備室からの昭和六二年三月二六日付け事務連絡をもって、国労及び国労所属組合員にねらいを定めて行われた旨を主張するところ(前記事案の概要の「三当事者の主張」「3 控訴人補助参加人等(五)(16)」)、本件就業規則は、旧国鉄本社内に設置された右設立準備室においてその案が作成され、また、右設立準備室から右事務連絡が発せられたことは、前記認定のとおりであるが、被控訴人設立の経緯からして、右設立準備室が旧国鉄本社内に設置されたことは合理的な理由があり、前示のとおりの被控訴人の設立に至る経緯や本件就業規則の趣旨、目的等に照らせば、本件就業規則は、従来の国鉄とは異なる新しい企業秩序の維持・確立に向けて、すべての社員を対象として制定されたものであって、こうしたことによれば、右設立準備室において本件就業規則の案が作成され、右事務連絡が発せられたからといって、本件就業規則及び右事務連絡が国労及び国労所属組合員にねらいを定めたものであったと認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人補助参加人等の右主張も採用することはできない。

8  以上の次第であるから、本件措置をもって、被控訴人が国労を嫌忌するがゆえに、国労の組織を弱体化させるために支配介入した不当労働行為であると認めることはできず、他に本件措置が労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当すると認定するに足りる証拠はない。

二  争点2に対する判断

控訴人補助参加人等は、行政処分の取消訴訟の補助参加人は、共同訴訟的補助参加人の地位を有し、被参加人の訴訟行為と抵触する訴訟行為をすることもでき、本件救済命令の法律的根拠として労働組合法七条三号のほかに同条一号を追加変更したとしても、処分の同一性は失われず、被控訴人に不利益を与えるものではないから、本件措置が同条一号に該当することを主張することができるとして、被控訴人のした本件組合員に対する本件措置は同条三号のほか、同条一号に該当する旨を主張する。

なるほど、本件訴訟は、行政処分の取消訴訟であるから、これに補助参加した参加人は、共同訴訟的補助参加人と解するのが相当であって、共同訴訟的補助参加人は、被参加人の利益に反しない限り、被参加人の行為と抵触する訴訟行為をすることもできると解されるから、控訴人が主張した事項であるか否かにかかわらず、控訴人補助参加人等は、これを主張することができるというべきである。

しかし、仮に、控訴人補助参加人等が主張するとおり、本件救済命令の法律的根拠として労働組合法七条三号のほかに同条一号を追加変更することが処分の同一性を失わせるものではなく、控訴人補助参加人等において本件措置が同条一号に該当することを追加主張することができるとしても、一で説示したとおり、本件組合員等の本件組合バッヂの着用行為は、本件就業規則二三条に違反し、正当な組合活動ということはできず、本件組合員等が本件措置を受けたことはやむを得ないというべきであり、前記認定のとおり、本件措置について、被控訴人が国労を嫌忌していたことから、本件組合員等の正当な組合活動を制限しようとした行為であると認めることはできず、労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当するということはできない。

したがって、本件措置が労働組合法七条一号所定の不当労働行為に該当するという控訴人補助参加人等の主張は採用することができない。

第四  結論

以上の次第であるから、控訴人及び控訴人補助参加人等の主張は採用することができず、控訴人が発した本件救済命令は違法であるから、その取消を求める被控訴人の請求は理由がある。

よって、被控訴人の本件請求を認容した原判決は相当であって、控訴人及び控訴人補助参加人等の本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小川英明 裁判官下田文男 裁判官長秀之)

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